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暇文 暇なときに書いてみた文章

神出鬼没の自己言及

ジショの旅 第三回

2014年になり、3ヶ月が過ぎた。長い冬が解けて、朗らかな陽光と無愛想な強風という相反する要素が組み合わさって、ツンデレ的に人々に春の訪れを告げている。

 

……時候の挨拶を述べている場合ではない。いくら更新不定期が持ち味だからといって一年以上もブログを放置する人間がいるか普通。現実で色々あったのは仕方ないとして、それならそうとネタにするなり書くことはできたはず。

要するになんだかんだで面倒臭がってたわけだ。うん。

 

ここらでこの「ジショの旅」という企画すら忘れつつあるから、少し思い起こしてみたいと思う。課題の再認識は大事。

2011年11月19日に書かれた、この企画を紹介する記事では次のような記述があった。

つまり、「書籍版明鏡国語辞典」はひたすら自分の仕事の機会を待ちわびていたわけだ。
申し訳ない。実に申し訳ない。
それにせっかく3000円ちょっとも出して買ったのに、一切使わぬというのは金をドブに捨てる真似である。
有効活用及び、贖罪、それがこの企画のテーマだと思う。

 なにを言ってるんだお前は。

 なにが贖罪であろうか。再逮捕されてもおかしくないくらいの罪の償わないっぷり。2年半の時を経て、加害者意識は吹っ飛んでいたらしい。

反省しよう。辞書を引こう。

「明鏡止水」からその名を頂き、言葉の啓蒙を為すため、北原保雄御大によって遣わされた使者。それが明鏡国語辞典だ。大修館書店の血と汗と頭脳が、このクリーム色のカバーの内側に詰まっている。

ばばばっとページをめくっていって今日はここで止めてみよう。

1734ページ。項目名は、「物狂おしい」

もの-ぐるおし・い【物狂おしい

正気を失わせるほどの強烈な刺激や印象があるさま。

「――ほどの色香」

 そういえば「悩ましい」という言葉もある。正の評価が強すぎるあまり、観察者に負の影響をもたらす。そんな類の言葉なのか。

しかし「正気を失わせる」とは余程のものだ。人間が正気を失う状態はなかなか見れるものではない。あまりにも対象物の魅力が強すぎて、もはや人間の理性で判断できる範疇を超えてしまうということなのか。もしくは、取り憑かれたと形容できるような執着心を生み出すことなのか。

どちらにせよ、対象に対する並々ならぬ感情は伝わってくる。

 

ここで、例えば対象物を「レタス」としてみよう。

「物狂おしいほど魅力的なレタス」

今すぐにでもレタスを買いに走りたい、そんな身悶えが見える。新鮮なレタスをどう調理しようかと興奮する荒い息遣いが聞こえる。レタスが彼の心を締め上げている。レタスにありつくことができなければ彼は自ら命を断つぐらいのテンションだ。

正気を失っているということを忘れてはならない。レタスを手に入れたとしても、彼はまともに調理するだろうか。レタスへの「物狂おしさ」はどう解消されるのか、誰にもわからない。このレタスを誰にも渡したくない、そう思うあまり、包丁でみじん切りにして全てオーブンで焼き尽くすぐらいはしてもおかしくない。

これが個人的な「物狂おしい」のイメージである。

 

そう考えると「物狂おしい」と呼べるほどのものに出会ったことがあるだろうか。

ある人への愛が変な方向に暴走して犯罪に至る、いわゆるストーカーも物狂おしいの一種だろうか。少なくとも僕はストーカーになっていた記憶はない。何かの魅力が強すぎて、という方向性なら分かるが、物狂おしいまでいくとなると……そんな感じ。

一目惚れも多分この系統だろう。一見しただけで惚れる必要があるのだから、余程の強い衝撃を受ける必要がある。最初に引用した字義は満たす。しかしどうも「狂おしい」感がない。もっと内面でモヤモヤを抱えていて欲しい。

 

冷静に考えると、さっきから「好き」のイメージになっている。何故だ。

先述の通り、執着心が根底にある気がするからだろうか。乱暴な言い方をすれば「何かが好きすぎてヤバイ」の延長線上にある感情としてしか見れていない。それ以外の物狂おしさが思いつかない。

レタスのことを考えすぎて考えすぎてその結果正気を失うのであれば、それだけレタスに思考を充てているわけだから、レタスが好きじゃないとやってられないのではないか。レタスが大嫌いな人は、心の中をレタスで満たす余裕はないのだ。

 

だからといって、何か好きなものや人があると普遍的に感じる感情でもないらしい。それならもう滅茶苦茶だ。みんながみんな正気を失っていては困る。ある一線を超えた衝撃を受けた時に至ることのできる境地のようなものなのか。

そこまでの境地に至って初めて、本当の感情ともいえよう。理性なぞをふっ飛ばした、心の底からの原始的な好意だからだ。しかし人間という生き物でやってる以上は、もう少し人間らしさを求めるのも悪くはない。

「物狂おしい」の境地。知りたくもあり、知りたくなくもあり。

 

明鏡国語辞典 第二版

明鏡国語辞典 第二版